デイヴィッド・ハルバースタムの、「ザ・ベスト&ザ・ブライテスト」

敵を知り己を知れば百戦危うからず(孫子)、という言葉がある。我々は、自分も十分知らないのに、取り組む対象を十分知ろうともしない。その結果は、「偽のヴェテラン」に繋がると思う。
デイヴィッド・ハルバースタムの、「ザ・ベスト&ザ・ブライテスト」は、ヴェトナム戦争に米国の最高の頭脳を持つ面々が何故まきこまれたか、を記述している本である。
その中でも、最も秀才と言われたのが、ロバート・マクナマラ国防長官である。
彼は、第二次世界大戦中の日本本土爆撃に用いられたB-29ロジスティクス(如何にして生産し、如何にしてグアム・サイパンに運び、如何にして日本に飛ばし、如何にして帰還させ、如何にして補給するか)の計画を立て実行した、(その点では)ある意味ヴェテランであった。
その功績がケネディ大統領の目に留まり、就任したてのフォード社長から急遽国防長官に据えられた。
当時、ヴェトナムの状況は、フランス撤退後を引き継いだ米国は本心では名誉ある撤退を望んではいたが、インドシナの赤化及びドミノ理論が幅を利かせていたため、抜き差しならない状況に陥りかけていた。
マクナマラ長官の秀才の程度は、膨大な説明スライドを使用してのブリーフィングを受けている中で、あるスライドの記載内容がかなり以前の別のスライド内容と矛盾していることを指摘できるほどであった。
その彼をしても、ヴェトナム戦争介入を終息させることはできなかった。
なぜか?
正確な情報が中枢に伝えられなかったためである。
現地からは、「連戦連勝。あとこれだけ金と戦力を注ぎ込めば、完全に西欧型の民主主義政権がヴェトナムに成立するから、もう少し・・・」というような口当たりのよい言葉しか伝えられなかった。
しかし、ヴェトナムの民衆は、「我々のことは我々でやるから余計なお世話、出て行ってくれ」と思い行動していた。
このすれ違いを彼は、本当に理解できなかった・・・
結果は、米国の無残な逃げ出し状況で終結したことは歴史上の事実である。
同様の歴史的な失敗は、古今東西列挙にいとまがない。
我々が有利なのは、それらから学ぶことができる、ということである。
取り組んでいるものの本質を見極め、「真のヴェテラン」になることが大切と思う。