原子爆弾の誕生

著:リチャード・ローズ
訳:神沼 二真/渋谷 泰一
啓学出版、1993年
ISBN:9784314007108/9784766511857
冷戦体制が続いていた1986年に出版された『原子爆弾の誕生』(The Making of the Atomic Bomb) では、1930年代の核分裂、核連鎖反応の発見に始まり、マンハッタン計画を経て、1945年の広島と長崎への原子爆弾投下に至るまでを中心として原子爆弾の誕生の物語を明らかにする。 科学者、政治家、軍人、そして被爆者に関する数多くの事実と証言をおよそ600件の文献とインタビューを元に幅広く網羅するとともに、そのつながりを明らかにし、批評を廃してそこに存在した多くの物語を冷静なタッチで描き出している。原書で900ページ近いこの著作は、1988年に一般ノンフィクション部門でピューリッツァー賞を受賞したのを始め、全米図書賞、全米批評家協会賞を受賞し、原書は数十万部を売上げるとともに、10か国語以上に翻訳され、この著作はこのテーマにおいてそれを最も包括的に扱った代表的なもののひとつとなっている。(ウィキペディアより引用)
日本語訳でも、上下巻に分かれた今やこの分野では古典と呼んでもおかしくない内容。
ここで、原子爆弾のおさらい。
炭素1.0gを完全燃焼させると、化学反応で32800Jの熱が発生する。
一方、アインシュタイン特殊相対性理論によれば、質量とエネルギは等価であり、E=mc2の関係が存在する。
ウラン235分子が1個核分裂を起こせば0.000000000032Jの熱が発生する。
1.0gのウラン235が全て核分裂を起こすと、82000000000Jの熱が発生する。
広島原爆では、876.3gが核分裂反応を起こして、55000000000000Jの熱が「一度」に発生したと推定されている。(ウィキペディアによる)
レオ・シラードが道路を横切ろうとしたときに、中性子による核連鎖反応の可能性に思い至ったことが本書上巻の導入部で、他国に先駆けて原子核分裂爆弾製造に乗り出した米国及びドイツ並びに日本、他多くの登場人物の状況を描き、真珠湾攻撃に用いられたのは「長崎製」の魚雷であったことを述べて上巻は終わる。
下巻は、政策決定に関与した政治家、大がかりな製造工場設営・運営に携わる軍部、管理された人々、劇的なドイツ重水プラント破壊、日本での開発が絶望になった状況が語られる。
「ウランを爆薬として使うなら、10キログラム必要。ならば普通の爆薬10キログラムを使えばよいのではないか」下巻p316
と言われた仁科博士の悲哀。
あまりにも簡単に決められた投下地、あまりにも低く見られた投下地の人々、あまりにも無残な投下後の状況が描かれる。
原爆は最終兵器として強力すぎるため使用ができない状況、ながら、人間が扱うことによるミスの存在の可能性、今後人類が核廃絶に向けて努力すべきことを述べて終わる。
かなり重い内容であった。