唯幻論大全

−岸田精神分析40年の集大成-
著:岸田 秀
飛鳥新社(2013/01発売)
ISBN 9784864102094
著者は、『ものぐさ精神分析』(青土社、1977年)にて、「人間は本能の壊れた動物である」と喝破した人物である。
当時、それを読み、眼から鱗が落ちるような思いがし、数冊買い求めたことがあるのを覚えている。
1970年代に故伊丹十三氏と共同で刊行した、雑誌「モノンクル」を購入したこともある。
本書は、母親との葛藤から生じた人格障害を自己分析する中で生み出された「唯幻論」を概説するための選集である。
特に惹かれた部分を引用する。
自己分析というと、自分の心の分析であると思いがちであるが、心の分析というよりは行動の分析である。他者の反応が自己分析のための有益な信頼できる資料となり得るのは、他者の眼にはわたしの心は見えず、行動しか映らないからである。わたしの心が見えない他者は、わたしがわたしの行動について持っている好都合な自己正当化に惑わされることなく、外側から見えるわたしの行動に対してのみ素直に反応してくる。わたしの無意識は意識から排除されていても、行動には表れている。意識は偽るが、行動は偽らない。(p94)
未来とは、逆方向に投影された過去、仮想された過去に過ぎない。未来とは修正されるであろう過去である。過去において満足されなかった欲望は数かぎりなく、悔恨の種は尽きないから、未来は無限でなければならない。未来が限定されること、すなわち死をわれわれが恐れるのは、過去を修正するチャンスが限定されるからである。(p111)