著:杉山正明
日経ビジネス人文庫(増補版2011年7月)
ISBN:9784532195991
歴史学にとって重要なことは、一次資料の発見と分析であろう。
現在得られている各種資料は、(そもそも)記録を残す文化・文明が遺したものになる。
各種の戦争・衝突では、勝者/敗者が生じる。
所謂“正史”と呼ばれる書物は、“勝者”が自分たちの正当性を後世に残すために著したものがほとんどであろう。
本書は、ユーラシアの殆どの地域を席捲していた遊牧民の観点からの「世界史」である。
大陸で表意文字を生み出した民族のみが主張する過去は偏り過ぎているのではないかと著者は述べる。
著者も、
率直にいって、いま、これらの正史を主要典拠にせざるをえないのは、たいへん苦しい。(p236)
とある。
残念乍ら、北方騎馬民族の残置した資料は少ない。
かの大帝国を打ち建てたモンゴルについて、西方攻撃時に蹂躙された側の資料では、畜鬼の如き仕業であったかのような表現がなされていたことは、充分うなずける。
過去の出来事を述べる歴史書に於いては、
・やられた側(資料:少)
・やった側(資料:大)
のバランスを取って評価する必要があることを明確に述べている。