リンカン

著:ドリス・カーンズ・グッドウィン
訳:平岡 緑
〈上〉南北戦争勃発ISBN: 9784120041938
〈下〉奴隷解放宣ISBN: 9784120041945
中央公論新社 (2011/02/10 出版)
丸太小屋で生まれ、柵木割り屋から大草原の弁護士を志し、何らかの痕跡を歴史に残すことを祈念した人物が、米国の大統領となり、政敵を懐にいれ、南北戦争に勝利したとたんに、歴史の人となった・・・なんという運命。
ワシントンDCにリンカーン記念堂、ラシュモア山に石像、5ドル紙幣に肖像等々、歴史上有名な人物であり、その人生は児童向けの伝記全集に取り上げられるほどである。
本書は、オバマ氏が大統領選挙勝利後にホワイトハウスに持ち込みたい最初の本として挙げたことでも評判となった。
著者は、膨大な原資料を渉猟し、当時のリンカーン大統領及びその周辺人物を詳らかに描写している。
米国の今までの大統領の中でも、ほとんど最優秀の人物であろうことが、作者の思いとしても伝わってくる。
とかく政治家の動向について、まわりの取り巻きやマスメディアが騒ぎ立てるが、その真意を必ずしも酌んで報道していたのではない、当時から・・・ということに気づかされる。
いわんや、昨今のTPP論議に至っては、各論総反対で、心中を察すること大である。
当時は、現代のようなPAアンプのような便利な拡声器はなく、ましてや録音機のような文明の利器もなく、演説は、原稿若しくは速記で保存された。
考えてみればこれはすごいことだ。
ゲティスバーグ演説は、わずか2〜3分間で終わったが、
government of the people, by the people, for the people...
は、今や全人類の普遍の目標を簡潔に述べたものとして人口に膾炙している。
さて、本書の表記は通常と違う。
リンカーンがリンカンに、スワードがシワードに・・・なっている。
英語により準拠すればそのようになるのであろう。
アラスカ購入の交渉に尽力し、1867年3月30日、586,412平方マイル(1,518,800km2)の土地を720万ドルでロシアから購入した(出展:ウィキペディア)その人がスワード(シワード)であったのだが、ちょっとピンとこなかった。
購入価格は1エーカー(約4000m2)当たり約2セントにしかならなかったが、この辺境の地を購入したことについて大衆からは、「スワードの愚行」とか「スワードの冷蔵庫」とかアンドリュー・ジョンソンの「ホッキョクグマ庭園」などと嘲られた。今日アラスカ州では3月の最後の月曜日を「スワードの日」として購入したことを祝っている。(出展:ウィキペディア)
即ち、シワードその人も先見の明ある大統領に相応しい人物であったといえる。
但し、それを上回ったのがリンカンであった。
訳文中、たまに、係り結びが不明瞭で意味がよく取れない部分があった。