病の皇帝「がん」に挑む

-4000年の歴史-
著:シッダールタ・ムカジー
訳:田中 文
早川書房(2016/06)
ISBN:9784150504670/9784150504687
一昔前、「がん」は不治の病であり、病院内では(患者に秘するために)キャンサー:CancerのCAをドイツ語読みした「ツェーアー」が隠語で用いられていた。
症状顕在化後、患部が早期発見できれば摘出手術し、予後体内移転が無ければ良し、体内移転があれば座して死を待つ・・・というような扱いであった
一口に「がん」と言っても、発生状態は多様で、特効薬は無く、一般人には分かりづらい。
(薬を飲めば直る、という疾病はかなりの功を奏し、)ヒトの寿命を延ばすことで、がんを覆っていたベールを取り去った 上巻p80
本書は、人類の過去の「がん」とその対応を歴史的な観点から説明し、ピリッツアー賞を得ている。
がんに対しては、歴史的に、手術と化学療法と放射線療法とホルモン療法と分子標的療法更にはゲノム療法がなされてきた 下巻p328
特に乳がんに対しては、
根治的乳房切除術が主流だった(中略)あいだに、約500万人の女性ががんを「根絶する」ためにこの手術を受けた。(中略)多くが永久に外見を損ねられ(中略)多くがその責め苦を果敢に耐えた。 上巻p302
がんの正体は、細胞分裂の暴走であり、そのメカニズムは
がんがヒトのゲノムに縫い込まれている 下巻p324
ということを、最近やっと知ることができた。

がんの全体像を知ることについて、大変秀でた書物。


米国のがん根絶キャンペーンとして偶像化された、ジミー = エイナル・グスタフソンの物語が上巻で紹介され、下巻でその本人が名乗り出るところは、思わず姿勢を正して読んだ。


上巻p27~28で、
エドモンド・フォードが、蛾の毛の色のわずかの変化(中略)と捕食する鳥による自然淘汰
のことを記しているが、これはオオシモフリエダシャクの観察例として、「工業暗化」という項目でウィキペディアにある。