21世紀の啓蒙

―理性、科学、ヒューマニズム、進歩-
著:スティーブン・ピンカー
訳:橘 明美、坂田 雪子
発行:草思社
ISBN9784794224217/9784794224224
原著名は、enlightenment now
「今や蒙を啓こう」という直訳で、
「さあ(無知の人を)啓発して正しい知識に導びこう」というほどの意味。
上巻p33、下巻p116にも、「啓蒙」の定義を
「人間が自ら招いた未成年状態から抜け出ること」
としている。
頑迷固陋な無知蒙昧の輩に道を示そうとしたところは、カール・セーガンの「悪霊にさいなまれる世界」と目的は同じだが、切り口が違う。
米国の第45代大統領のことを意識して著していることがそこここに伺われる。
歴史を科学の観点から見直し、現状把握とともに、未来に向けてなにをすべきかを説く。
よく言われる「科学は宗教の一種だ」という誤謬を明らかにする。

カール・マルクスについて、
大英博物館の図書室で書き綴った思想のほうは二十世紀の歴史の流れを決め、それ以降にまで影響を与え、何十億人もの人生を捻じ曲げた。下巻p229
と記す。

地球温暖化でよくある誤解、
北極の氷が融解すると、世界的に海面が上昇する。下巻p241
正解は、陸上の氷床が融解すると、世界的に海面が上昇する
と注記する。

社会制度について、
自分の意志で移住する人々が、我先に逃げていくのではなく、「入れてくれ!」と叫びながらやって来るのなら-その社会の現行制度は先に進むための起点として悪いものではないだろう。下巻p258
と、良いところを突く。

ピンカー先生とて万能ではなく、
カリキュラムの見直し会議で全学生が認知バイアスについて学ぶべきだと主張したのだが、受け入れられなかった。下巻p282
が面白い。

宗教の無効性について、
神は何人いるのか、どのような奇跡を起こしたのか、信者に何を求めているのかなど、宗教ごとに信じるものが違っている。下巻p358
何故か?共通性の欠如による虚構性とその詭弁性を指摘する。