ビッグバン宇宙論

著:サイモン・シン
訳:青木 薫
新潮社(2006/06発売)
かつては人間の理解を超えたあらゆることがらに責任をもつとされていた神(下巻、p244)は、
世俗の人々に世の中の仕組みを説明しなければならなかった。
日常生活から得られる天文事象の説明として、太陽は毎日東から出て西に沈むことから、天動説を採用することに何らの不自然さはなかった。
しかし、実は、地球の方が太陽の周りを自転しながら公転している。
かつては光を運ぶ媒体として”エーテル”なるものが考えられていた。
しかし、アインシュタインが、観測者に対する光の速度は不変性を見出して、ニュートン物理学から一歩踏み出した。
そのアインシュタインでも宇宙は静的で永遠なるものが好ましいと思い”宇宙定数”を加えた。
しかし、ハッブルは、宇宙は膨張している事実を観測した。
実際に宇宙マイクロ波背景放射が受信され、さらにそれに揺らぎがあることまで実証され、「ビッグバン」理論は、現在の宇宙論の主流となっている。
理論が打ち崩され、より広義の理論が構築される科学の「パラダイムシフト」を学ぶための好適本。
科学者も人間なので、理論の守旧派、進歩派、急進派、穏健派、世俗派、学究派、悲運派、幸運派が多数いる。
著者は、それらの人物のエピソードを適量に織り交ぜる力量に優れている。
原著が上梓されたのが2004年なので、ティコ・ブラーエの死因に纏わるケプラーの疑惑についての踏み込みがさほどないのも頷ける。