秘境西域八年の潜行

著:西川一三
中公文庫
日本人が蒙古ラマ僧になりきり、現地では、チベットに巡礼のモンゴル僧「ロブサン・サンボー」と名のり、チベット、西康、シッキム、インド、ネパールをほとんど徒歩で托鉢等をしながら巡った約6年間の旅行記
当該のチベットには明治時代に、河口慧海師が潜入してチベット旅行記を著している。
本著者は、中国から峠越えをしてチベットに入り、当時外国人禁制のラサでラマ僧として一時修行した後、諜報者使命を帯びて上記の地域を巡った。
現代ならば、自動車という手段があるが、外国排斥の国々では、当時道路網拡充しなかったことと、今なお険阻な山岳地の各峠を命を賭して超えて行った。
さすがにインドは広大な国土であるため、薩摩守を決め込んだ移動もあった。
その内容は、鮮明な記憶から書き綴られており、文庫本約600ページで3巻にも亘っている。
日々の歩く速度は限られているが、標高、温度、湿度によって醸し出される歴史的な人間の風俗・習慣が、市井の人々との触れ合いとともに生き生きと語られている。
著者は、パキスタンからアフガニスタン方面にも向かいたい意向を持っていたが、当時の印パ紛争の影響でパキスタン入りはならなかった。
種々を勘案すると、当該地域は命がいくらあっても足らない(今ならなおさら)状態であったことから、やむ負えなかったと思われる。
諜報員としての貴重な情報を持って帰国したが、日本外務省ではけんもほろろな扱いを受け、内容を最大限に享受したのはGHQであった。実に国際的なセンスの差異が読み取れる。
本書は、学生時代に一読したことがあり、ロブサン・サンボーという言葉は覚えていた。
が、内容については、海馬がフル回転しても覚えている箇所はなかった。